2024.11.14
2024年の能登半島地震でも大きな被害が出た「液状化現象」。
家づくりというと、つい建物に目が行ってしまいまいがちですが、南海トラフや首都直下型地震が危惧される昨今では地盤や地震対策についても気を抜けなくなってきました。
そこで、今回はこれから土地探し・家づくりをはじめる施主に向けて、
- 液状化現象の仕組み・メカニズムは?
- 土地の液状化リスクはどうやって見極める?
- 具体的な対策方法や地震保険について
など最低限知っておくべき「液状化現象」に関する知識について解説していきます。
尚、今回のお話しについては、実際に地盤専門家(地盤保証会社)の方に監修いただいた内容なのでしっかり勉強していきましょう!
関連動画(YouTube):『耐震性が高い住宅も危険『液状化現象の基礎知識』、地震保険の補償内容を徹底解説【土地探し】』
目次
そもそも「液状化現象」とは?
液状化現象ってどういう仕組み・メカニズム?
(出典:国土交通省)
通常、地面には「土」と「水」が安定的に存在していますが、ここに揺れが発生すると、「土」と「水」が分離し、「土が下に沈殿し、水が表面に浮き出るような状態」になります。
これが「液状化現象」ですね。
このように液状化現象が発生すると地盤が緩くなるため、家が沈んでしまったり、水道管が破裂してしまったり…と甚大な被害が出てしまうわけです。
液状化現象が発生した場合、元に戻せるの?
「アンダーピニング工法」で可能と言えば可能
(出典:東京都都市整備局)
家が沈む…というともはや手の打ちようがないようにも見えますが、「アンダーピニング工法」という堅固な支持層に鉄の杭(くい)を刺して家を持ち上げる工法があります。
かなり大がかりな工事にはなりますが、これを実施すれば被害を受けたとしても、元に戻すこと自体は可能です。
液状化防止対策もあるが非常に高額…
また再発防止対策やそもそも液状化現象が発生しないように、液状化層の地盤を改良する「地下水位低下工法」「格子状地中壁工法」といった対策もありますがこれらの工事は非常に高額。
すでに被害に遭ってしまった場合、これらの工事が必須となるケースもありますが、もしこれから土地を探すのであれば「そもそも液状化リスクの低い土地を選ぶ」ようにしましょう。
土地の「液状化リスク」を判定する方法は?
【前提】液状化リスクの判定前に…
これから紹介する方法は、基本的には「国土交通省が出している指針」に沿って解説していきます。
またその指針の中にも記載されていますが、この判定方法は「震度5まで」しか想定されていません。そのため「震度6以上となると、想定外の事態も生じうるので完璧に防ぐことはできない」という前提を覚えておいてください。
判定方法①:「液状化ハザードマップ」を確認
(出典:国土交通省北陸地方整備局)
液状化リスクの判定方法として一番良いのが、「液状化ハザードマップ」の確認です。
ただし、このハザードマップの整備度合いは地域によって大きく異なるため「有効に使える地域」と「そうでない地域」があります。
例えば今回液状化被害に遭った新潟のように、被害が多い地域に関しては「昔ここに川が流れていた」「沼だった」といった情報も加味して、細かく整備されているため精度もかなり高いです。
対する大阪や東京などの都市圏は、埋立地が多いにもかかわらず、ここまで細かく整備されていないのが実際のところ。
そのため土地を探す際には、「その地域の液状化リスクを詳細にまとめたハザードマップがあるか?」を調べ、細かいデータがある場合はそちらを参考にしてもらうのが良いでしょう。
判定方法②:昔の「土地分類」から判断する
専門家の方に教えていただきながら、素人でも分かりやすい+参照しやすい資料をピックアップしてみました。
ただし、これも「絶対に大丈夫」という見極め方ではないので、そこは理解して参考程度にしてくださいね。
液状化リスクの高い土地区分は?
これは土地の区分によって、液状化のリスクを「大・中・小」に分類した図です。一番リスクが高いのは、「旧河道(元々は川だった場所)」ですね。
たとえば大阪には淀川という大きな川がありますが、あれは小さな川や支流を一つにまとめる形に整備した川です。このように、昔は川だった場所はすごく液状化現象が起きやすい場所なわけです。
また同様に、「埋立地」や「自然堤防縁辺部」といって、川の流れによって砂や土が運ばれてできた土地も液状化リスクが高いですね。
今回の能登半島地震では、このような「旧河道」や「自然堤防縁辺部」を中心にハザードマップ通りに液状化被害が発生してしまっているので、見ておいて損はないでしょう。
どうやって昔の土地区分を調べればいいの?
(出典:J-SHIS Labs)
今検討している土地が「昔、どんなところだったのか?」については、「J-SHIS Labs」さんが公開されている「地形・地盤分類250mメッシュマップ」を使って確認可能です。
250m単位のマップなので、めちゃめちゃ細かくまで分かるわけではありませんが、例えば上図の「水色」部分であれば、「”三角州”に当たるので、先の液状化リスクの表を参照する限り、液状化リスクは【中】だな」というように見るわけです。
基本的に、液状化リスクが高い土地に関しては避けた方が良いですが、「地域が全体的にリスクが高い」というところもありますよね。
そういう地域の場合は、最低限「液状化リスクが高い土地に家を建てる際の注意点」だけしっかり押さえておきましょう。
判定方法③:近隣の「地盤データ」を確認
近隣の地盤データを見る方法もありますが、100mでも離れたら地盤の状況は変わるので、こちらもあくまで参考程度に見ておきましょう。
「スクリューウエイト貫入(SWS)試験」のデータをチェック
「スクリューウエイト貫入(SWS)試験」とは、地盤改良の前に行う地盤調査方法になります。
この試験データについては、地盤保証会社だけでなく、恐らく住宅会社もデータを見られるサイトを使っていますから、営業マンにデータを引っ張ってもらったら、住宅会社が提携している「地盤保証会社」に液状化リスクに関する意見をもらいましょう。
とはいえ、このSWS試験はあくまで簡易検査なので、「液状化層の深さの位置が分かる程度」でそれほど詳しいことは分かりません。
ただ、近隣の複数地域のSWS試験データを見て、「ほぼ全ての地域で、地面から3~5mの場所に液状化層はないようだ」ということであれば、ある程度安心できますね。
もっと詳しく知りたい場合は「ボーリング調査」のデータをチェック
ボーリング調査とは、マンションを建てる時などに使われるような調査方法で、この調査データは「G-Space」というサイトで見ることができます。
ただ、このデータを閲覧できる住宅会社はそれほどないため、念のため見ておきたいという人は、営業マンに「近隣のボーリング調査データは確認できますか?」と地盤調査会社に確認してもらう必要があります。
とはいえ、ボーリング調査はマンションや学校を建てたり、川の周りの護岸工事をする時のデータが主になっているため、住宅地の調査データはない可能性もあります。「あればラッキー」くらいで考えておきましょう。
調査データの検証は自分でできる?
SWS試験、並びにボーリング調査のデータ検証については、素人では難しいため地盤保証会社にコメントをもらうのが一番良いでしょう。
ただ家を建てるかどうか決まっていない住宅会社に、ここまで依頼をするのは現実的でないため、ここまでやるならある程度住宅会社を決めてからにしてくださいね。
また土地を探す際は「その土地が本当に良い土地なのか?」という見極めに、ある程度住宅会社のプロの力も必要ですから、土地を探す前に家を建てる住宅会社を決めて、そことガッツリタッグを組んでから進めるのがよいでしょう。
「液状化リスクがある土地」だった場合、どう対策すべき?
上記3つの方法を元に「液状化リスクが高そう」と判断される場合、どう対策を行うべきか?についてですが、結論から言えば、液状化対策を行ったうえで戸建住宅を建てるのは、費用・スケジュール的に非現実的です。
理由①:対策前の調査段階で、数十万+数か月はかかる…
まず液状化対策をしようと思うと、SWS試験だけでは不十分なことが多いので別途「ボーリング調査」が必須です。
ただボーリング調査をするとなると、数十万円近くかかるうえ、1~2週間どころか「数ヶ月くらい」かかるケースがほとんど。
これくらいスケジュールに余裕を持ちつつ、コストも許容できるのか?と考えると、ちょっと現実的には難しいでしょう。ただ、ハザードマップからも液状化リスクが確認でき、過去に液状化が発生した履歴も残っている場合は、ボーリング調査も含めて検討した方が良いでしょう。
理由②:液状化の対策工事も最低数百万はかかる…
一通り調査を終えたら実際に対策工事を行っていくわけですが、対策工事にも「小口径鋼管杭・深層混合処理・浅層混合処理・格子状地盤改良工法」といった方法があります。
ただし、これらも非常に高額。最低でも数百万円はかかってしまうでしょう。
そのため液状化対策については、建て替えの際に「どうしても液状化リスクが高いので何とかしたい…」という人向けですね。
当たり前ですが、今から土地を探す人は、「そもそも液状化リスクが低い土地を探す」のが最も現実的です。
液状化現象は「地盤保証/地震保険」でカバーできる?
「地盤保証」では液状化現象は補償されない!
地盤保証とは、地盤調査・地盤改良を経て地盤調査会社から保証してもらう保証制度のこと。
地盤保証にも10年や20年がありますが、この地盤保証で補償されるのは『”家の重み”で地盤が沈み、傾いてしまった場合』であり、傾いた原因が地震や液状化現象の場合には補償されないんです。
そのため、「地盤保証があるから液状化が起こっても大丈夫!」というのは大きな間違い。
関連記事:『』
液状化現象に対応するなら「地震保険」
ただ地震保険は適用条件が厳しい…
地震による「液状化現象」にも対応するには、別途「地震保険」の加入が必要になります。
ただ、これも意外と役に立ちません。というのも地震保険は適用条件がめちゃくちゃ厳しいんです。
地震保険の適用条件は?
全損(100%) | 「17/1000以上」の傾きがある場合 |
---|---|
大半損(60%) | 「14/1000以上」の傾きがある場合 |
小半損(30%) | 「9/1000以上」の傾きがある場合 |
一部損(5%) | 「3.5/1000以上」の傾きがある場合 |
()内は保険金額の割合
地盤保証であれば「5/1000以上の傾き」があれば適用になるんですが、上記の通り地震保険の場合は「9/1000」傾いていたとしても「小半損」と保険金額の30%までしか補償されません。
今回の能登半島地震でも「地震保険が役に立たなかった」という声を見かけますが、これも家が大きく傾いているのに地震保険の適用条件が厳しいために、「一部損」や「小半損」にしかならなかった…というのが理由なわけです。
5/1000以上の傾きってどのぐらい?
角度で言うと、「5/1000=0.29°」になります。
こう聞くと全然傾いていないように感じるかもしれませんが、家が0.29°傾いてしまうと、「体調が悪くなるレベルの傾き」だと言われています。
地震保険では、この倍(10/1000=0.58°)傾いていたとしても「30%」しか保証されないので、ここからも「如何に地震保険の適用条件が難しいか」が分かってもらえると思います。
結局、地震保険は入った方が良いの?
結論、液状化リスクがある土地の場合は「地震保険に入っておいた方が良い」です。
また同じく、南海トラフ地震や首都直下地震により「震度6以上のリスク」がある地域についても入っておくべきでしょう。
ただし先にもお話ししたように、地震保険が満額適用される条件はとても厳しいです。(液状化以外の「揺れによる倒壊」に関しても厳しいです)
そのため地震保険については、満額もらえるという前提ではなく、「一時的な生活資金が下りる保険」という意味合いで捉えておくのがいいですね。
これも踏まえると、大地震のリスクが低い地域であれば、手元に数百万円の資金があれば、無理に地震保険に加入する必要はないでしょう。
土地探しは慎重になりすぎず…
これから土地を探す人は、「なるべく液状化リスクの低い土地」を探しましょう。
ただ液状化リスクがめちゃくちゃ低い土地で探してしまうと、地盤が固い「山の近く」に寄ってしまうため、お店が少なかったり、交通機関が通ってなかったり…と生活が不便になってしまいます。
「液状化リスクが低い+便利な土地」を探していくと土地が見つからず家づくりが全く進まない事態にもなりかねませんので、土地探しにおいては、「液状化リスクが極端に高い土地は避けつつ、ある程度のリスクは背負って地震保険にも入る」というのが、ちょうどいい塩梅ですね。
まとめ
液状化現象の基礎知識
- 液状化現象の仕組み・メカニズムは?
⇒地震によって、土が沈殿し、水が表面に浮き出る現象
⇒これにより、家が傾いたり、水道管が破裂したりする - 液状化現象が起こったら元に戻せる?
⇒可能といえば可能 - 土地の液状化リスクを判定する方法は?
①:「液状化ハザードマップ」を確認
→整備度合いは地域によって異なる
②:昔の「土地分類」から判断する
→液状化リスク「大」に該当していないかチェック
③:近隣の「地盤データ」を確認
→SWS試験・ボーリングの調査データをチェック(地盤保証会社への依頼が安心) - 液状化リスクがある土地の対策方法は?
⇒液状化対策+戸建て建築は、費用・スケジュール的に非現実的
⇒理由①:対策前の調査段階で、数十万+数か月はかかる…
⇒理由②:液状化の対策工事も最低数百万はかかる…
⇒「そもそも液状化リスクが低い土地を探す」のが最も現実的 - 液状化現象と各種保証・保険の話
⇒地盤保証は適用外、対応するなら「地震保険」が必須
⇒ただ地震保険は適用条件が厳しい
⇒「修理費」というよりも「その間の生活費」として捉えるのが理想 - 結局地震保険は入った方がいい?
⇒液状化リスクや震度6以上のリスクがある場合は加入推奨 - 液状化リスクを踏まえた土地探し
⇒「液状化リスクが低い=山の近く」
⇒生活が不便になってしまわないよう、極端にリスクが高い箇所を避けて、地盤保証10年+地震保険加入が無難