「換気システム」の正しい知識と失敗しない選び方(後半)|熱交換・給気フィルターの推奨レベル
投稿日 2020.09.27 / 最終更新日 2023.04.17

24時間換気システムの快適性について、詳しく解説していきます。本記事は、24時間換気システムの最終回です。
YouTube動画でも分かりやすく解説していますので、こちらもご覧ください!
目次
換気システムの最重要ポイントはメンテナンス
換気システムの役割は「換気し続けること」なので、何よりメンテナンスが重要です。メンテナンスについては、前の記事で詳しく解説しましたので、まだ読んでいない方は、メンテナンスの記事を読んでから、本記事をご覧ください。
関連記事:「換気システム」の正しい知識と失敗しない選び方(前半)|メンテナンス性能の見極め方
換気システムのメンテナンス性能を理解できたら、ようやく次に、快適性を考えることができます。本記事では、換気システムの快適性のポイント「熱交換システム」と「給気フィルターの性能」について、解説していきます。
【結論】ちょうどいい塩梅の『換気システム』は?
ちょうどいい塩梅の「換気システム」は、以下の通り。本記事では、⑤⑥について解説していきます。
①換気システム種類/ダクト計画 ⇒ ダクト排気型の第1種換気
②機械の修理費用 ⇒ 10万円以下
③給気フィルターの位置 ⇒ 家の外から掃除できる位置
④排気フィルターの位置 ⇒ 掃除しやすい手の届く位置
⑤熱交換システム ⇒ 全熱交換80%
⑥給気フィルター性能 ⇒ PM2.5対応
関連記事:「換気システム」の正しい知識と失敗しない選び方(前半)|メンテナンス性能の見極め方
※ちょうどいい塩梅の「●●」とは・・・やりすぎずやらなさすぎず。建材のレベルは、ある一定まで上がるとそれ以降は費用対効果が悪くなるので、その手前(最も費用対効果が高いところ)で止めましょう、という“ちょうどいい塩梅主義”に基づいてセレクトされた推奨レベルのことです。
ちょうどいい塩梅の『●●』をまとめた「せやま性能基準」の一覧表は、以下記事より無料ダウンロード可能です。
⑤熱交換システム
換気とはつまり、窓を開けることですから、夏でも冬でも、きちんと2時間に1回窓を開けて空気を入れ替えれば問題はありません。でも実際は難しいですよね?夏は暑いし、冬は寒い。窓を開けて寝ようものなら、冬なら寒すぎて風邪をひきます。
そこで、「換気はしたいけど寒い空気はいれたくない」という要望に応えるのが、熱交換システムです。窓を開けても寒い空気は入ってこないのに、ちゃんと換気はできている、という少し魔法のような優れた機能なのです。イメージ図はこんな感じ。
<熱交換システムのイメージ>
(出典:イシンホーム大阪)
外から入ってくる冷たい空気が、室内から捨てる暖かい空気の熱を利用して暖めてられ、室内に取り込まれている様子が分かります。外部へ捨てる空気の熱を再利用するシステムと思ってもらえればOKです。
例えば、外は0℃、中は20℃とします。第1種換気で熱交換80%とすると、外から入ってくる0℃の空気を16℃まで温めて室内に給気することができます。室内20℃の空気の熱80%を0℃の空気に熱交換するので、0℃→16℃になるわけです。
これなら、エアコンは16℃→20℃に上げるだけでいいので、しっかりと換気をしても光熱費は高くなりません。
一方、熱交換システム無し(窓を開けたり、第3種換気の場合)だと、0℃の空気がそのまま入ってきます。すると、エアコンは常に0℃→20℃に上げなければいけませんので、光熱費がぐんと上がってしまうわけです。
<熱交換システムによる温度変化イメージ>
(出典:ダイキン工業)
熱交換システムは「全熱交換80%」を推奨する理由
(出典:トレイン・ジャパン ※一部加工)
顕熱(温度)交換だけを行うのが、「顕熱」交換システム。一方、顕熱(温度)と潜熱(湿度)の両方を交換するのが、「全熱」交換システムです。顕熱交換だけではなく、潜熱交換があるメリットは、こんな感じ。
夏は、エアコンによって湿度が下がるので、室内の湿度は外気の湿度より低くなります。潜熱交換がないと、取り込む外気によって、室内の湿度が上がってしまいますが、潜熱(湿度)交換があれば、取り込む外気をある程度「除湿」した上で、室内に取り込むことができます。
冬は逆。冬は人間が発する水蒸気や加湿によって、室内の湿度が上がります。潜熱交換がないと、取り込む外気によって、室内の湿度が下がってしまいますが、潜熱(湿度)交換があれば、取り込む外気をある程度「加湿」した上で、室内に取り込むことができます。
以上が、顕熱だけではなく潜熱も交換する「全熱交換」をおすすめする理由です。
次に、「80%」である理由ですが、これは“ちょうどいい塩梅主義”の考えに基づきます。
熱交換率90%の最上位クラスもありますが、換気による熱損失は季節平均で以前全体の10%程度。その10%の差なので、10%×10%=1%程度の差。熱交換の%(パーセンテージ)は、家全体の熱損失で考えると大きくないので、さほどこだわらなくてもいいかな、という結論です。
“ちょうどいい塩梅主義”とは・・・やりすぎずやらなさすぎず。建材のレベルは、ある一定まで上がるとそれ以降は費用対効果が悪くなるので、その手前(最も費用対効果が高いところ)で止めましょう、という考え。ある程度高いレベルを維持しつつ、やりすぎないことで費用を極力抑える、究極の最適バランス主義。
『複雑なシステムを導入すると壊れるのでは?電気代もかかるのでは?』に対して
熱交換システムは、かなりシンプルな構造です。いわば、段ボールのような機構が何層にも重なっているだけです。こんな感じ。
(出典:レンゴーHP)
熱交換の仕組み自体は、エアコンなどで昔から使われている技術なので、決して複雑で新しい機構ではありません。また、電気代も改良が進み、最近では月500円前後まで下がってきています。
『熱交換システムだとウイルスが逆流してしまうのでは?』に対して
熱や湿気を交換するのであれば、ウイルスも逆流するのでは?という疑問があると思いますが、結論、心配はありません。
現在の熱交換素子は、水分子だけが交換されやすい特殊な構造(水素分子を利用)になっているので、ウイルスが逆流する事はほぼなく、仮にわずかのウイルスが逆流しても、外気で問題ないレベルに希釈されるため、熱交換システムが原因でウイルスに感染することは、まず考えられません。
ただし、熱交換素子が埃等で目詰まりしてしまうと、空気の流れが悪くなり、カビ発生の原因になりますので、給気フィルターの掃除(3カ月に1回)と、熱交換素子の掃除(1年に1回)は、絶対に忘れずに行いましょう。
⑥給気フィルターの性能
新鮮な空気を取り込む給気口に設置するフィルターのことで、「家のマスク」のような役割を果たします。
<「家のマスク」の役割を果たす給気フィルター>
(出典:マーベックス)
給気フィルターは、除去できる汚染物質によって、花粉対応→PM2.5対応→PM0.3対応・・・という感じに性能が上がっていきます。また、除去率によって、花粉80%カット→花粉90%カット→花粉99%カットという感じに性能が上がっていきます。
で、「結局どこまでやるべきか?」という話ですが、除去率(%)よりも除去できる汚染物質に注目して選ぶことをおススメします。
<日本列島にも、PM2.5は多く飛来している>
給気フィルターは「PM2.5対応」にすべき理由
肺の奥深くに到達したPM2.5は、時間をかけて肺を侵食し、呼吸が苦しくなっていきます。この病気の名前をCOPD(慢性閉塞性肺疾患)といいます。COPDによる2017年の死者数は18,000人ほどで、特に男性の死亡原因の第8位にまで増えています。
<西日本が上位を独占しているのは、中国大陸からのPM2.5飛来が要因かも!?>
(出典:鹿児島県)
COPDは別名たばこ病と呼ばれ、以前は喫煙者の病気と思われていましたが、受動喫煙やPM2.5の影響により、非喫煙者にも広がりを見せています。言い換えると、PM2.5が滞留する室内は、たばこの煙が漂う室内で暮らすという状態に近いので、PM2.5を除去することは必要だというわけです。
これは当然ですが、喫煙者の方は、こどもたちのために禁煙するか、副流煙を子供たちが吸わないように十分留意してください。
副流煙には、主流煙より圧倒的に多くの有害物質が含まれています。以下データを見る限り、本来なら、未成年の喫煙を禁止するなら、受動喫煙も禁止しないとおかしいはずです。
<副流煙は、主流煙より圧倒的に有害>
(出典:日本生活習慣病予防協会)
『給気フィルターの掃除が面倒なのでは?』に対して
確かに。フィルターがありますというと、「掃除が面倒では?」という声は必ず挙がってきます。でも、よく考えてみてください。
外部の空気の汚染物質(花粉、ほこり、排気ガス、PM2.5など)をそのまま室内に取り込んで、室内が汚れて一生懸命掃除するのがいいのか、給気フィルターで汚染物質を除去して、室内はきれいだけどフィルターの掃除をするのがいいのか。
どちらがいいですか?確実に後者です。汚染物質は室内に入る前にまとめて除去して、汚れたフィルターを掃除するだけのほうが絶対に楽です。というか、フィルターで汚染物質を除去して室内に空気を取り込んだ方が、確実に身体に良いです。
<汚れた(汚染物質を除去してくれた)給気フィルター>
(出典:ユニックス)
まとめ
ちょうどいい塩梅の「換気システム」は、以下の通り。本記事では、⑤⑥について解説しました。
①換気システム種類/ダクト計画 ⇒ ダクト排気型の第1種換気
②機械の修理費用 ⇒ 10万円以下
③給気フィルターの位置 ⇒ 家の外から掃除できる位置
④排気フィルターの位置 ⇒ 掃除しやすい手の届く位置
⑤熱交換システム ⇒ 全熱交換80%
⑥給気フィルター性能 ⇒ PM2.5対応
※ちょうどいい塩梅の「●●」とは・・・やりすぎずやらなさすぎず。建材のレベルは、ある一定まで上がるとそれ以降は費用対効果が悪くなるので、その手前(最も費用対効果が高いところ)で止めましょう、という“ちょうどいい塩梅主義”に基づいてセレクトされた推奨レベルのことです。
【文責:瀬山彰】
PROFILE

せやま大学の人
瀬山 彰
大学卒業後、日本最大手経営人事コンサルティング会社にて、全国ハウスメーカー・工務店を担当。住宅業界で手腕を振るう中、住宅業界の悪しき文化に疑問を覚え、家づくりの新たなスタンダードの確立を目標に掲げる。その後、中堅ハウスメーカー支店長を経て、2019年に独立。
「家なんかにお金をかけるな!質は担保しろ!」をテーマにした”ちょうどいい塩梅の家づくり”が話題となり、YouTube「家づくり せやま大学」は、登録者数5万人超えの人気チャンネルに。現在は、優良工務店認定制度「せやま印工務店プロジェクト」の全国展開を推進し、ちょうどいい塩梅の家づくりの普及に努めている。
娘4人の父親。広島県出身、広島カープファン。