2024.11.14
火災・水災(浸水)・風災(台風)に強い新築住宅を建てる方法を解説していきます。
本記事の内容は、YouTube動画でも分かりやすく解説していますので、こちらもご覧ください!
目次
火災・水災・風災の被害確率は意外と高いのに・・・
日本の新築住宅は、地震より被害確率が高い「火災・水災・風災」の対策が不十分です。まずは、火災・水災・風災の現状から、災害対策の必要性を理解していきましょう。地震対策は、以下記事を参考にしてください。
関連記事:本当に必要な7つの「地震対策」|耐震性能は、耐震等級ではなく設計士の質で決まる!?
①火災
2018年1~12月の住宅火災発生件数は、11,019件。1日あたり30件起きていることになり、最も身近な災害と言えるかもしれません。
<平成30年火災発生件数>
(出典:総務省消防庁)
②水災(浸水被害)
平成29年1~12月の、全壊437棟、半壊2137棟、床上浸水8,348棟、床下浸水18,509棟でした。火災件数が約1.1万軒なので、床下浸水の被害にあう確率は、火災より高いといえます。
発生件数から考えると、火災だけではなく、床下浸水にも十分備えが必要であることは間違いありません。
<平成29年1~12月水災発生軒数>
(出典:政府統計ポータルサイト)
また、床下浸水の原因となる氾濫には2種類あります。河川の氾濫などの「外水氾濫」と、ゲリラ豪雨などで下水道があふれてしまう「内水氾濫」ですが、見落としがちなのが「内水氾濫」です。少しずつ「内水氾濫」のハザードマップも整備されてきているので、確認するようにしましょう。
<外水氾濫と内水氾濫>
(出典:ユニバーサルホーム)
③風災(台風)
風災のほとんどが、台風被害です。2019年の主な台風被害は、台風21号と台風24号でした。
保険支払件数は、台風21号と台風24号の合計で1,085,193件。日本全国総戸数が6,000万棟なので、約55棟に1件が被害を受けたという計算になります。かなり高い数字です。(この数字には、無保険で被害を受けた軒数は含まないので、被害実数はこれより多いと推定されます。)
<台風21号・24号の被害件数>
(出典:日本損害保険協会)
もちろん、2019年が台風被害が多かったので、毎年この確率というわけではないですが、昨今の異常気象を考えると、今後も同等の確率で被害が起きる可能性は十分にあると考えられます。
では、被害金額はどうでしょうか?台風21号と台風24号の保険支払金額合計が、約1兆1,454億円なので、平均は約105万円となります。これもそこそこ高い数字。風災保険に入っていなかったらと考えると、ぞっとします。
我が家も飛んできた瓦の被害を受け、約60万円の保険の支払いを受けました。
<風災保険の保険金>
(出典:日本損害保険協会)
【結論】ちょうどいい塩梅の『火災・水災・風災対策』は?
ちょうどいい塩梅の「火災・水災・風災対策」は、以下の通りです。
①火災対策 ⇒ 省令準耐火構造
②水災対策 ⇒ 地盤から45cm開口無+ハウスシューズ
③風災対策 ⇒ LDKシャッター
※ちょうどいい塩梅の「●●」とは・・・やりすぎずやらなさすぎず。建材のレベルは、ある一定まで上がるとそれ以降は費用対効果が悪くなるので、その手前(最も費用対効果が高いところ)で止めましょう、という“ちょうどいい塩梅主義”に基づいてセレクトされた推奨レベル。
①火災対策:省令準耐火構造にすべき理由
ちょうどいい塩梅の「火災対策」は、省令準耐火構造。新築住宅を省令準耐火構造にすべき理由は、(木造住宅の場合)実質0円で、火災に強い家にすることができるからです。
省令準耐火(しょうれいじゅんたいか)構造って何?という方が多いと思いますが、省令準耐火構造の細かい規定は覚えなくいいです。以下の通り、外部からの火災をもらいにくく、室内の火災も燃え広がりにくい構造になるんだな~と理解しておいてもらえればOK。
<省令準耐火構造とは?>
(出典:all about)
新築住宅を省令準耐火構造にすると、火災に強くなることはもちろんですが、木造住宅の火災保険料が半額程度になるというメリットもあります。火災保険料は必ず加入しますので、必ず安くなるということですね。地震保険も同様です。
省令準耐火構造にすることで、費用は10万円前後upしてしまうのですが、2,000万円ほどの家ならば、火災保険料が10万円以上は安くなると思いますので、いきなり元が取れます。
実質0円で火災に強い家になるならば、やるしかないよね!ということです。
(出典:吉野石膏)
省令準耐火構造以外の火災対策
建物火災の発生原因から、省令準耐火構造以外の火災対策を考えていきます。
■火災発生原因
1位 こんろ
2位 たばこ
3位 防火
4位 ストーブ
5位 配線器具
<火災発生原因別の件数>
(出典:総務省消防庁)
こうして見ると、新築時よりも、新築後の生活で気を付ける点が多いですね。それぞれ対策をざっと確認しましょう。
1位 こんろ
データはありませんが、ほとんどが、ガスコンロと推定されます。火災対策だけでなく、省エネ性も含めて、IHコンロを推奨します。鍋を振りたい!という方はガスコンロになりますが、それ以外の方は迷わず新築時にIHコンロを選択すると良いかと思います。
2位 たばこ
これは、たばこを吸う人に「気を付けて下さい!」としか言えません。そもそも家の中での喫煙は、副流煙による家族の健康被害を招きますので、やめていただきたいところです。
3位 放火
まず、敷地内に死角を作らないこと。次に、家の周りに段ボールなどの可燃物を置かないこと。そして、ご近所さんとお付き合いしておくことです。玄関先に、人感センサーの照明を付けることも効果的ですね。
4位 ストーブ
ストーブを使わなくても、暖かい家にしましょう。そのためには、第1章「断熱・気密・換気性能」で紹介した、ちょうどいい塩梅の「窓」「断熱」「気密」「換気システム」を新築時にクリアするようにしましょう。
関連記事:第1章 「断熱・気密・換気性能」について|記事まとめ
5位 配線器具
コンセントのトラッキング火災ですね。プラグの上にほこりがたまって起きる火災なので、対策はコマめな掃除しかありません。トラッキング火災対策のコンセントもあるので、これから買う人は検討してください。特に、水回りのコンセントが要注意です。
『準防火構造と省令準耐火構造は違うの?』に対して
全く違います。準防火構造は、準防火地域に指定されたエリアで新築戸建住宅を建てるときに、義務付けられる仕様。
準防火地域での準防火構造は義務なので、施主に選択権はありません。準防火地域の土地を選んだ時点で、確定です。窓を防火窓にする(orシャッターを付ける)対策が必要で、坪3~4万円upします。
<準防火構造とは?>
(出典:ケイミュー)
一方、省令準耐火構造は任意なので、施主に選択権があります。ほとんど新築住宅会社の標準仕様は、省令準耐火構造になっていないので、施主から要望を伝えるようにしましょう。
ちなみに、準防火構造にしたとしても、省令準耐火構造になるわけではないので、ご注意ください。準防火と省令準耐火は全くの別物です。ややこしいですが、お気を付けください。
『太陽光パネルは、火災の原因になりませんか?』に対して
以前、「太陽光パネルが発火し、屋根に延焼した!」というニュースが、話題になりました。
万が一、太陽光パネルが発火しても、屋根が不燃材になっているので、家には延焼しないはずでしたが、今回7件が屋根側に延焼しました。この延焼の原因は、記事にもありますが「屋根一体型太陽光パネル」です。
<屋根一体型太陽光パネルが原因で起きた火災>
(出典:朝日新聞デジタル)
屋根一体型の太陽光パネルは、屋根一体型というより「屋根なし工法」と言った方が良いでしょう。太陽光パネルを屋根として使うので、文字通り屋根がなく、太陽光パネルの火がそのまま家に延焼してしまったわけです。
<太陽光パネルから火が延焼した屋根>
(出典:日経Xtech)
この「屋根なし工法(屋根一体型の太陽光パネル)」は、以前からありえない工法として新築戸建業界内では有名でした。
こうして白日の目にさらされたことで、今後使われることはなくなっていくと思いますが、お構いなしで屋根一体型太陽光パネルを使い続ける新築住宅会社があるかもしれません。なので、施主の責任で「屋根一体型太陽光パネル」は絶対に選ばないようにしてください。
関連記事:「太陽光発電システム」の失敗しない選び方|太陽光パネル・パワコンのおすすめメーカー紹介
②水災対策:地盤から45cm開口無+ハウスシューズにすべき理由
ちょうどいい塩梅の「水災対策」は、地盤から45cm開口無+ハウスシューズです。
床下浸水の対策は、新築時に基礎の開口をなくしておくこと。当然ですが、基礎に開口がなければ床下浸水はなく、水災が多い地域で、基礎を高くすることがあるのはそのためですね。
「地盤から45cm開口無」にすべき理由は、水災保険の適用条件に「地盤から45cm超の浸水」とあるためです。地盤から45cm以下の浸水による床下浸水は、保険金がおりないということ。この事実は意外と知られていませんね。
反対に、地盤から45cm超の浸水による床下浸水や床上浸水(浸水高さ不問)には、保険金がおります。もちろん、被害に合わないのが理想ではありますが、自然相手で100%の対策は無理ですから、せめて保険金が下りないリスクを回避すべきと考えています。
<水災保険は「床上浸水または地盤面より45cmを超える浸水に限る」と明記されている>
(出典:SBI損保)
また、住宅基礎の保護材(一般的にハウスシューズと呼ばれます)を塗装するようにしましょう。これにより、基礎の打ち継ぎ部分等からの浸水リスクを抑えることができます。
<住宅基礎の保護材(ハウスシューズ)>
(出典:日東エルマテリアル)
45cm以下の浸水による床下浸水を防ぐ具体的な方法
では、新築時に対策できる具体的な方法を説明します。もちろんこの対策をしても、45cm以下の浸水による床下浸水を100%防ぐことは難しいですが、大きくそのリスクを抑えることはできます。
まず、基礎の見え高を45cm以上にしましょう。見え高とは、地盤の表面から基礎の上までの高さのことです。最近の新築住宅は、基礎高を40cm以上にする会社が多いので、「基礎の見え高を45cm以上にしてください」と伝えると、追加費用無しで対応してもらえるかもしれません。
<基礎の見え高を45cm以上に>
次に、基礎を貫通する配管のコーキング処理をしましょう。新築時だと、高効率給湯器(エコキュート)の配管が基礎を貫通することが多いと思うので、注意が必要です。
最後に、換気システムの給排気口が、基礎部分に設置される場合は、給排気口を積雪地域仕様にするなどして、地盤から45cm以内の高さに開口がないように調整してください。ハウスシューズの施工も忘れずに。
<積雪地域用の排気口を使って、基礎部分の開口を無くした施工例>
『水災保険の加入は必要?』に対して
ハザードマップを確認し、自分の土地が、外水氾濫と内水氾濫のいずれもハザードエリアに入っていなければ、外してもよいかと思います。気を付けるべき点は、外水氾濫のハザードマップだけで判断せず、内水氾濫も念頭にいれておくことです。
ゲリラ豪雨などで下水道があふれてしまう内水氾濫は、あらゆる場所で起きる可能性があるので、必ず内水氾濫のハザードマップも確認するようにしましょう。
<内水氾濫のハザードマップ>
内水氾濫のハザードマップが整備されていない地域の場合は、判断が難しいのですが、迷ったら加入しておくのが無難かと思います。特に都心部では、舗装された面積が多いことを要因に、内水氾濫の割合が増える傾向にありますので、ご注意ください。
<都心部は内水氾濫の被害額が大きい>
(出典:国土交通省)
③風災対策:1階シャッターを設置すべき理由
台風が来た時は、絶対に家の外に出ないことが基本ですが、心配なのは、飛来物によるけがです。飛来物による窓ガラス損傷を防ぐためには、シャッター設置が有効。昔でいう雨戸ですね。
理想は、すべての窓へのシャッター設置ですが、それなりにコストも上がりますので、家族の安全空間を確保するという意味で、「LDKのシャッター設置」を推奨します。小窓はシャッターはつけられませんので、引き違い窓や、掃き出しテラス窓が対象になります。余裕があれば、2階含めて全ての窓に設置してください。
私自身、2018年台風21号の被害を経験したのですが、台風通過中には、いろんな飛来物(瓦や樋など)が我が家に衝突しました。幸い、飛来物の窓への衝突はなかったのですが、シャッターを閉めた室内で過ごせたことは、心理的な安心につながりました。
<風災対策はLDKにシャッター設置>
また、新築時の火災保険に入るときに、必ず風災補償を付けるようにしましょう。風災の保険適用認定は、かなり緩いため、風災被害による金銭的な負担は、風災補償付き火災保険で十分賄えます。
ちなみに、平成29年台風被害の保険認定率は、約90%でした。ほぼ認定されるという事ですね。
<台風被害の保険認定率>
(出典:日本損害保険協会 ※一部加工)
『空き巣対策のためにもシャッターは必須だと思うのですが?』に対して
そうですね。防犯面でもシャッターは役に立ちます。シャッターを閉じれば、下部でロックがかかるので、外側からは開けにくくなります。
といいつつ、シャッターをすべての窓に付けて、防犯フィルムを貼って、セキュリティシステムを導入して…とすると、コストはどんどん上がってきますので、シャッター以外で、さほどお金をかけずにできる空き巣対策を紹介しておきます。
ポイントは、狙われにくい家にすることです。
・録画機能付きのインターホンにする
空き巣は、留守確認のために、インターホンを鳴らすことがあり、録画されるのはもちろん嫌います。
・外部に人感センサー照明を設置する
当然空き巣は、見えやすくなることを嫌いますので、予防効果があります。
・泥棒に狙われにくい玄関ドアにする
鍵穴が隠れているタイプや、開錠してしばらくすると自動で施錠するタイプなどがあります。あえて開けにくい玄関ドアを選ぶ泥棒はいません。
<防犯性の高い玄関ドア>
(出典:YKK AP)
・現金を置かない
プロの空き巣は、ATMで現金を下ろすタイミングなどの生活リズムを調べた上で、空き巣行為に及ぶと言われています。なので、現金を家に置いておく習慣は、泥棒に狙われやすい要因になると言えます。
・死角を作らない
これは説明不要ですね。最近の新築戸建は、塀などをつくらない「オープン外構」が流行っていますので、それでいいと思います。
・ご近所付き合いをしておく
これも説明不要ですね。日頃から連絡を取り合っていれば、何か家に異変があれば、知らせてくれるでしょう。見慣れない人がいたら、不審者として注意してくれるはずです。
・ベランダの鍵を閉め忘れない
空き巣のベランダからの侵入は多いのですが、ついつい2階だからと油断してしまうことがあります。ご注意ください。
他にも空き巣対策はありますので、さほどお金を掛けずともできる対策をまず取った上で、さらなる空き巣対策費用をかけるかどうか、を検討していきましょう。
まとめ
ちょうどいい塩梅の「火災・水災・風災対策」は、以下の通りです。
①火災対策 ⇒ 省令準耐火構造
②水災対策 ⇒ 地盤から45cm開口無+ハウスシューズ
③風災対策 ⇒ LDKシャッター
※ちょうどいい塩梅の「●●」とは・・・やりすぎずやらなさすぎず。建材のレベルは、ある一定まで上がるとそれ以降は費用対効果が悪くなるので、その手前(最も費用対効果が高いところ)で止めましょう、という“ちょうどいい塩梅主義”に基づいてセレクトされた推奨レベル。
【文責:瀬山彰】