2024.11.30
家づくりにおいて、「性能・機能面」ももちろん重要ですが、そもそも“家を長持ちさせる”という観点も大切。そしてその中でも忘れてちゃいけないのが「シロアリ対策」です。
シロアリというと古民家などの被害が連想されるかもしれませんが、新築であってもシロアリ対策は必須。
そこで本記事では、
- そもそもなぜシロアリ対策が必要なのか?
- 被害を受けるとどうなってしまうのか?
- 対策するにしても、具体的にいつ・何をやればいいのか?
について解説していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
シロアリは古民家だけの話じゃないよ!
目次
そもそも“シロアリ”ってどういう生き物?
実はシロアリは「ゴキブリ」の仲間!
ゴキブリとは異なり、薄暗い床下を好む
シロアリはその見た目から“アリ”と呼ばれていますが、分類的には実は「ゴキブリの仲間」です。
ただし生息場所はゴキブリとは異なり、基本人目につかない主に地中で暮らしているため、基礎下からの根本的な対策が必要です。
シロアリは“湿った木”が大好物
シロアリの好物は「水分」と「セルロース(繊維)」。かみ砕いて言うと、『湿った木』が大好物です。
一方で日光や風にはめっぽう弱いため、日中薄暗い床下に湿った材木があると格好の餌場となるわけです。
日本でよく見かけるシロアリは主に”3種類”
シロアリと言っても種類はさまざまで、日本に生息するシロアリは「ヤマトシロアリ」、「イエシロアリ」、「アメリカカンザイシロアリ」の3種類。
それぞれの特徴は以下の通りです。
1. ヤマトシロアリ
ヤマトシロアリは全長の約1/2が頭部を占める小型のシロアリで、日本におけるシロアリ被害の『9割以上』がこのヤマトシロアリによるもの。
またなんとなく、「寒い地域であればシロアリもいないんじゃ?」と思う方もいると思いますが、このヤマトシロアリは北海道などの寒い地方にも生息しており、活動が活発化するのは大体「4~5月頃」と言われています。
基本的には家でヤマトシロアリを見かけたら、「ほぼ確実にシロアリ被害を受けている状態」なので、見かけたら必ず被害状況を確認するようにしてください。
2. イエシロアリ
イエシロアリは西側(太平洋側)の温暖地域に生息しており、被害件数自体は少ないんですが、被害を受けてしまった場合の”被害規模は甚大”です。
習性としては、土の中に巣を作り、梅雨明け「6~7月」ごろの比較的暖かい時期に活動しはじめるのですが、こちらも1匹でも見かけたら、すでに被害にあっている可能性が非常に高いので、必ず被害状況を確認をするようにしてください。
3. アメリカカンザイシロアリ
アメリカカンザイシロアリは、外来種のシロアリなのですが、その他のシロアリのように土から基礎を伝って…だけでなく、空中から飛んできて屋根から入りこむこともあるため、正直「防ぎようがない」といわれている非常に厄介なシロアリです。
ただ、生息地は「海岸沿い・港がある地域」と限定的なので、基本は被害件数の多い「ヤマトシロアリ」「イエシロアリ」に対して対策を講じるのが良いでしょう。
(出典:公益社団法人日本しろあり対策協会)
新築でも「シロアリ対策」を徹底すべき3つの理由
①被害を受けると、地震で倒壊しやすくなってしまうから
まずシロアリ被害にあった場合、家の構造(土台・柱)そのものがスカスカになってしまうため、耐震等級通りの強度が出ず、「地震などで倒壊しやすい家」になってしまいます。
加えてシロアリは、“確認しづらい箇所”から侵食していくため、気づいた時にはすでに家中ボロボロで、いざ地震がきたら全く耐震性がない状態…、という悲惨なことにもなりかねません。
関連記事:『耐震等級だけじゃダメ!新築戸建ての「地震対策」に必須な”4項目”を徹底解説!』
阪神淡路大震災で全壊した家の「9割」がシロアリ被害に…
実際に、朝日新聞夕刊(1995年4月26日付)によると、阪神淡路大震災により、シロアリ被害を受けていた住宅の『約95%以上は全壊・半壊してしまった』だったそうです。(被害がなかった住宅の全壊・半壊は50%)
もちろん築年数などもあるので一概には言えませんが、「シロアリ被害あり or なし」とでは、地震の際の倒壊リスクに大きな差が生じてしまうんです。
②シロアリ被害は「5棟に1棟」と、被害確率が非常に高いから
(出典:「しろあり2014.1」公益社団法人日本しろあり対策協会)
また実際に「シロアリ被害がどのぐらいの頻度で発生するのか?」についてですが、シロアリ対策を行っていない家の場合、5棟に1棟がシロアリ被害を受ける※と言われています。
シロアリというとなかなか身近に感じづらいと思いますが、「5棟に1棟が被害に遭っている」と考えると、決して他人事じゃありませんよね。
③被害状況によっては、修繕コストが高額になってしまうから
シロアリ被害にあってしまった場合、初期段階であれば「数十万円~百万円」で対応できるんですが、例えばキッチンや風呂場などが被害に遭ってしまい、“住宅設備そのもの”の交換が必要になると、修繕費が1,000万円規模まで膨れ上がってしまうケースもあります。
もちろん、「そもそもシロアリに侵入させない」が一番ですが、被害に遭ったとしても、なるべく修繕コストを抑えるためにもできるだけ早く気付くことが大切ですね。
「すでに被害を受けていないか?」を確認する方法は?
最も簡単なのは「ウッドデッキ」などの確認しやすい木材が被害にあっていないか?を確認することです。
家の内部の場合は、壁や柱を叩いて「他の箇所と音が違う」だとか「へこみがある」、歩いた時に床がたわむ・軋むようであれば、シロアリ被害の可能性がありますから、念のため点検を依頼した方がいいですね。
シロアリ対策=「駆除すること」ではない!
シロアリ対策とは、「家に“侵入させない”」こと
上でも軽く話しましたが、シロアリ対策で最も大切なのは、そもそもシロアリを家に“侵入させない”こと。
皆さんシロアリ対策というと、防蟻剤なんかで「侵入したアリの退治」ばかりやろうとするのですが、そもそも家に入ってこなければ、退治の必要なんてないわけです。
ですので、まずは「シロアリ退治=シロアリ対策ではない」ということを覚えておいてください。
【結論】新築のシロアリ対策は「防蟻防湿シート」がマスト!
「防蟻防湿シート」で家への侵入を防ぐ
結論、シロアリ対策としてやるべきことは、「防蟻防湿シート」を敷いて、家への侵入を防ぐことです。
またこの防蟻防湿シートは、上図のように「家の基礎の下」に敷いて、シロアリが地中から上がってこれないようにするものですから、「家(基礎)を建てる前のタイミング」でないと施工できません。
もちろん建築後に行う対策もあると言えばあるんですが、それだと「そもそも侵入させない」という抜本的な対策にはなりませんから、必ず建築前の段階で「標準仕様内に防蟻防湿シートが含まれているか?」を確認しておきましょう。
推奨は「ピレスロイド系+厚み0.18mm以上」のシート
(出典:株式会社九州テクノ工販)
結論、BE ENOUGHが推奨するのは、『ピレスロイド系+厚み0.18mm以上』の防蟻防湿シートです。
「ピレスロイド系」というのは水溶性が低いため、雨にさらされても薬剤が地中に溶け込んでしまいづらく、比較的「防蟻効果が長く続く」という特徴があります。
加えて、シロアリがこの「ピレスロイド」に触れるとその危険性を仲間にも伝わり、巣を移動(撤退)させることにもつながるため、シロアリ被害を未然に防ぐことができるわけです。
またシートの厚みについてもさまざまなのですが、当然薄ければ薄いほど破れやすくなるため、原則「厚みは0.18mm以上」のものを採用するようにしてください。
【注意】「ネオニコチノイド系」は非推奨
<ネオニコチノイド系殺虫剤と人体への影響について>
(出典:第20回日本臨床環境医学会学術集会特集)
日本では、上記ピレスロイド系ではなく、「ネオニコチノイド系」が使用されるケースが多いのですが、ネオニコチノイド系は「水溶性が高い」ため非推奨。
加えて、上記データのように、人体への悪影響も懸念されており、健康被害につながる恐れもありますから、防蟻防湿シートは「ピレスロイド系一択」でOKです。
防蟻防湿シートを施工する際の注意点は?
1. シート間の“スキマ”をなくすこと
防蟻防湿シートを施工する際には、必ずにシートのつなぎ目に”スキマ”ができないようにしてください。
シロアリはわずか「0.6mm」の隙間から侵入してしまいます。
そのため、特に高低差がある箇所などについては継ぎ目が出ないように重ねて、必ずスキマができないように施工してください。
2. 基礎幅よりも広めに敷くこと(目安:基礎幅+30cm)
シロアリは必ずしも「基礎の真下」から侵入してくるとは限りません。
そのため防蟻防湿シートを敷く際には、必ず「家の基礎よりも広め(基礎幅+30cm)」に敷いてもらうようにしましょう。
特にここは、気の利く工務店さんでない限り、施主側から言わないと基礎ギリギリに敷かれる可能性が高いので、しっかり施主側から伝えるようにしましょう。
また、ウッドデッキを作る予定がある場合は、「ここまでウッドデッキを作る予定なので、広めに敷いておいてください」と相談しておくと理想ですね。
「シロアリ保証」はどうすればいい?
新築時に加入できる「シロアリ保証」というものもありますが、これは「無いよりあった方がまし…」という程度で、保証内容ベースで依頼先(住宅会社のこと?)を決めるほどではありません。
またシロアリ保証にも、ざっくり以下の3パターンあるのですが、加入する場合のベストは『保険会社による10年保証』です。
「シロアリ保証」の種類と特徴
- 防蟻剤散布に対する「5年保証」
⇒最も一般的だが、5年ごとに防蟻剤散布の必要あり
- ②シロアリ業者・住宅会社が行う「10年保証」
⇒シロアリ被害は10年目以降から増加するため、最初の10年はほぼ不要 - ③保険会社による「10年保証」 【加入する場合の推奨】
⇒新築時に、指定の“ピレスロイド系防蟻防湿シート”等を施工すると加入可能
また繰り返しになりますが、大切なのは「保証がどうか?」よりも「適切な対策を行うこと」ですからね。
防蟻防湿シート以外にできるシロアリ対策は?
対策①: 家の近くに「木材・紙」を置かないこと
シロアリの好物はセルロース(繊維)ですので、木材はもちろん「古紙」や「新聞紙」などもシロアリの餌になります。
よくあるのが玄関や家の周辺に新聞紙を置くケース…。
これらが雨に濡れてしまうと、「水分+セルロース」とシロアリにとって”絶好の餌場”になってしまいますから、家の周りに木材や紙類を置くのは絶対にやめましょう。
対策②:数か月に1回、「蟻道がないか?」をチェックしておくこと
床下ではなく外部からシロアリが侵入する場合、基礎部に「蟻道(ぎどう)」と呼ばれるトンネル状の出入り口が作られます。
そのため数ヶ月に一度でOKなので、「基礎の周りに蟻道ができていないか?」、「シロアリが歩いていないか?」をチェックするようにしましょう。
またもし蟻道を見つけた際には、基礎を伝って既にシロアリが侵入している証拠ですから、なるべく早めに点検・調査を依頼してくださいね。
対策③:「床下換気」を徹底すること
風に弱いシロアリにとって、風が通っていない床下空間はまさに最高の環境。
そのため特に基礎断熱の場合は、床下空間が密閉されてしまいますから「sumika(24時間全熱交換型換気システム)」など床下換気にも対応した換気システムを導入しておきましょう。
またsumikaを導入しない場合であっても、床下換気は必須ですから、必ず別途換気設備を導入するようにしてくださいね。
関連記事:『第一種換気はマスト?換気システムの種類や選び方、メンテナンスについて徹底解説!』
侵入対策(一次対策)が十分なら「防蟻剤」も有効!
防蟻剤は「ホウ酸系防蟻剤」が推奨!
<人体無害で基本的にメンテナンスフリーのホウ酸系防蟻剤>
(出典:エコパウダー)
冒頭から「防蟻剤ではなく、防蟻防湿シートで対策を…」とお話ししてきましたが、防蟻防湿シートによる一次対策(侵入防止)が十分であれば、防蟻材による二次対策(侵入後の食害防止)も有効です。
防蟻剤を使用する場合には、人体無害かつ基本的にメンテナンスフリーな「ホウ酸系防蟻剤」を使用するのがおすすめです。
【注意】「農薬系防蟻剤」は非推奨
農薬系防蟻剤は、人体への悪影響の懸念+メンテナンス必須なため非推奨です。
またこれは防蟻剤全般に言えることですが、防蟻剤だけでは完全にシロアリ被害を防ぐことはできませんので、防蟻剤はあくまでも「ピレスロイド系の防蟻防湿シート」を施工した上での二次対策と考えてください。
施主が勘違いしがちなシロアリ対策の”間違い”
間違い①:シロアリに強い樹種(ヒノキ)を使っているから大丈夫!
よくあるのが「ヒノキなので、シロアリを寄せ付けない!」というPR…。
確かにヒノキは、シロアリが嫌う樹種ではあるんですが、これはあくまでスギなどの“一般的な木材に比べて”の話です。
もちろんスギと比較したら被害を受けづらくなると思いますが、だからと言って家中すべてヒノキにするわけにもいきませんし、そうなると今度はヒノキを避けて他の樹種の部分から被害が発生することもあります。
そのため、「シロアリが嫌う樹種だから対策はなしでOK」という考えは間違いです。
間違い②:「鉄骨住宅」なので、シロアリ被害の心配はない!
結論、鉄骨住宅であってもシロアリ対策は必須です。
もちろん鉄骨部分がシロアリに食われる…ということはないんですが、鉄骨住宅と言っても全部が全部鉄骨というわけじゃないので、対策しておかないと鉄骨じゃない木材部分から被害が発生してしまいます。
そのため、「鉄骨住宅だからシロアリ対策は不要」というのも間違いです。
間違い③:ベタ基礎にすれば、シロアリ被害はなくなる!
(出典:「しろあり 2014.1」公益社団法人日本しろあり対策協会 ※一部加工)
結論、被害確率を軽減できるものの、ベタ基礎にすればシロアリ被害がなくなるわけではありません。
上表の通り、確かに「布基礎+土壌(赤部)」よりも「ベタ基礎(青部)」の方が“被害発生率”は低いんですが、件数としては計上されているわけですから被害は受けます。(打ち継ぎ部分・配管周りの隙間から侵入してきます)
そのためベタ基礎を採用したとしても、シロアリ対策は必須です。
まとめ
シロアリ対策で抑えておくべきポイントは以下の通り。
新築戸建の「シロアリ対策」で抑えるべき点
- シロアリ対策は、新築戸建であれば必須!
- 地域や使用樹種、鉄骨、ベタ基礎問わず対策必須!!!
- シロアリ対策とは、「侵入させないこと」
⇒防蟻剤でなく、「防蟻防湿シート」で侵入を防ごう!
⇒新築時にしか施工できないので要注意! - 防蟻防湿シートは、「ピレスロイド系+厚み0.18mm以上」が推奨!
⇒施工時は、「スキマを無くす」「広めに敷くこと」に注意!
※要望として施主から住宅会社側にしっかり伝えよう! - シロアリ保証はどちらでもいいが、加入するなら「保険会社の10年保証」が推奨
- 防蟻防湿シート以外にも対策はある
- ①家の近くに「木材・紙」を置かないこと
- ②「蟻道がないか?」をチェックしておくこと
- ③「床下換気」を徹底すること
- 侵入対策が十分なら「防蟻剤」も有効
⇒「ホウ酸系防蟻剤」の使用を推奨!
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