2025.02.08
「断熱性能はどこまですれば良いの?」と思う人は多いですよね。今回は、一般社団法人 ZEH推進協議会理事の宜野座(ぎのざ)さんに、断熱のプロとして最もコスパが良い高性能住宅を建てるポイントを教えてもらいました。建物価格も高騰しているので、お金をかけるべき優先順位や、お金をかけるべき程度、それをすることでどのような生活を送れるのか、やらないことでどのような生活になってしまうのかを聞いてみました。これから家を建てる予定で「暖かい家に住みたいけど、そんなにお金をかけられない」という施主は、コスパの良い高性能住宅の建て方の参考にしてください。
断熱性能が低い家のリアルな惨状に関して、詳しくはこちらでご確認ください。
関連記事:【特別コラボ】ZEH推進協議会理事が実体験。断熱性能が低い家のリアルな惨状【衝撃の実話】
今回は以下を詳しく解説していきます。
目次
宜野座さんの自己紹介
宜野座さん:
「一般社団法人 ZEH推進協議会の理事を務めている宜野座です。ZEHの普及や工務店さんのサポート方法、断熱性能について勉強して、工務店さんをサポートしています。よろしくお願いします」
断熱性能の重要性について
宜野座さん:
「断熱性能が低いと、窓が結露したり家の足元が寒くなります。ZEHレベルや2025年省エネ基準適合義務化のような基準を設けていますが、それでも性能は低いです。海外に比べても低く、新築でも結露したりカビが生える家が多いです。
そこに大金を払って住むのはおすすめしません。それであれば、賃貸で過ごすのと変わりません。
ただ、性能が良い家は本当に過ごしやすいです。床と天井の温度差がほとんどなくて、家の中にいても活発に動きやすいです。寝ていても睡眠の質が良くなるので、起きた時に爽快な気分で起きられます」
宜野座さんは、以前は高性能住宅に住んでいましたが、現在は仕事の都合で戸建賃貸に住んでいます。その家の性能が低くて寒く、睡眠の質が低いことをまさに体験しています。
宜野座さん:
「外がうるさくて眠れないとかではなく、寒くて眠れません。性能の良い家だと羽毛布団も不要で毛布があれば十分です。ただ、寒い家だと羽毛布団が絶対に必要です。毛布の上に羽毛布団を掛けて寝ていると、汗っかきなので寝ている間に体温が上がって不快になります。それが原因で夜中に起きることがあるので、やはり家の性能は大事だと感じています」
断熱で一番重要な箇所は?
宜野座さん:
「断熱といっても、窓や断熱材、壁、天井、屋根などの要素があります。その中でも、一番重要な箇所は窓です。どんな会社でどんな家を建てる場合でも、窓は本当に重要です。
窓は熱の出入りが激しい場所なので、性能が良いものを使ってください。断熱材は色々な種類がありますが、個人的にはそこまで気にしません。ただ、1つ気にしてほしいのが『G1・G2・G3などの数字を取っているだけではダメ』ということです。
G2を取るためには『断熱性能がどれくらいで、どういう壁を使っているか』という計算をしますが、断熱の厚みを厚くすれば計算上の性能は良くなります。つまり『窓の性能を上げなくても、壁や屋根、天井の断熱を厚くすればG2になる』ということです。
ただし、こういう家に住んでも不快です。ちょうどいい塩梅になるように、きちんと考えた方が良いです」
確かに「上はめちゃくちゃ厚いダウンジャケットを着て、下は短パン」という状態だと、数字上は良くても体感として寒くなりますよね。
宜野座さん:
「寒い地域の場合『コールドドラフト』という冷たい風が窓から入ってきて、下の方に溜まる現象がおきます。これによって足元が冷たくなると不快になるので注意してください」
やはり、窓を整えることが大切ですね。UA値は大切ですが、それだけで判断してはダメです。「まずUA値」という考え方にはリスクがあります。「窓を制する者は家を制する」つまり「窓で失敗したら終わり」となるので、窓を整えてください。
窓の中でもサッシが重要
私は、窓の中でも特にサッシ(枠)が重要だと考えていますが、宜野座さんはどう考えていますか?
宜野座さん:
「昔はアルミサッシだったこともあり、実家もずっと結露していて『サッシは結露して当たり前』だと思っていました。ただ、実際はサッシが結露するのは当たり前ではないことを頭に入れた方が良いです。
今は樹脂製のサッシが出ていて、結露しづらくなっています。つまり冷気も入りづらくなるので、樹脂製のサッシを使うのがおすすめです」
「樹脂サッシにしたら絶対に結露しない!」と勘違いしている人もいますけど、違いますよね。
宜野座さん:
「それは違いますね。住み方や地域にもよります。結露しにくいですが、絶対に結露しないわけではありません。今住んでいる家は半樹脂サッシ(アルミ樹脂複合サッシ)ですが、それでも結露します」
ハウスメーカーは「半樹脂サッシでも結露しません」「寒冷地じゃなければ大丈夫」と言うところもありますが、加湿して絶対湿度9~10g/㎥にすると窓の露点温度が10度前後なので結露することもありますよね。
宜野座さん:
「そうですね。加湿もせずに暖房も使わず、室温が外気温に近ければ結露しないです。ただ、そんな状況だと生活していて寒いので、健康には良くないです」
高性能住宅の落とし穴
宜野座さん:
「性能が良い家だからといって『夏は涼しくて冬は暖かい』というわけではありません。西に窓を付けるとそこから日光が入るので、家の中の温度は絶対にエアコンじゃ賄えないぐらい上がり、暑くなります。それで『高性能住宅がダメ』と言う人がいますが、そうではありません。
西日で部屋の温度が上がる場合、日光遮蔽をちゃんとすれば良いだけです。そこは工務店さんの技量次第ですね」
「高性能住宅を建てたら、絶対に幸せで快適な生活が待っている」と思いこむ人がいますが、大事なのは住んだ後です。本当に日射遮蔽は大切です。
宜野座さん:
「今はアプリでも太陽の高度が分かるものがあるので、『隣に何が建っているか』などの条件を入れれば日射遮蔽はしやすいです。あとは庇(ひさし)を出すこともおすすめです」
南は庇を出し、東西には基本的に大きな窓を付けないことが大切です。どうしても付けなければならない場合は、アウターシェードや葦簀(よしず)、ヘチマやゴーヤのカーテンもおすすめです。
気密性能の注意点
断熱はUA値だけではなく、窓の性能も大切でした。次に宜野座さんから気密性能の注意点も教えてもらいました。
宜野座さん:
「長期優良住宅が最初にできた時、『気密性能は5㎠/㎡以下』というルールがありましたが、いつの間にかなくなりました。恐らく『5㎠/㎡以下が普通』という認識になったからだと推測しています。
また、気密と断熱は一緒に考えていくべきだと考えています。断熱性能を良くしても気密性能が悪ければ隙間風が入ってきて、冬は寒くなってしまいます。逆に気密性能だけが高くても、断熱性能が良くなければあまり意味がありません」
気密性能は「隙間風が寒い」ということを防ぐだけではなく、窓周りで漏気(ろうき)が起きて壁体内結露に繋がることも防ぎます。
また、現場レベルで家を建てている人間からすると「気密測定をする」と決めている現場と、気密測定をしない現場だと職人さんの緊張感も違うと感じています。
そもそも気密測定をする現場だと下手な職人を入れられないという副次的な効果もあると考えています。
宜野座さん:
「やっぱり一生に一度建ててもらう家なので、しっかり作ってほしいですよね。『気密測定する家です』という一言で大工さんの手の入れ方が違うというのは、かなり大きな差ですよね」
本来はどの家でもちゃんとやることが大切ですが、やっぱり職人さんも人ですもんね。
宜野座さん:
「建ててもらう施主が『気密測定してください』と言うことが大事です。
気密が良くないと壁体内結露が起きるリスクは本当に高まりますが、壁の中は見えません。確認できるのはリフォームする時ですが、そんな10年後のリフォーム時に『断熱性能がこんな状況でした』なんて言われても、10年間は取り戻せません。シロアリが来ていることもあります」
コスパの良いUA値は?
「UA値をどこまでやれば良いの?」という問題があります。ZEH推進協議会の理事としては「温暖地は0.6以下」かもしれませんが、国は2025年4月から「0.87以下の省エネ基準が義務化になる」と言っています。ただ、世の中的には子育てグリーン住宅支援事業(GX)だとUA値0.46以下(断熱等級6以下)というのもあります。
そのため「0.87以下? それとも0.6以下? 0.46以下にするのが必要? どこまでやれば良いの?」と悩む人が多いです。もちろん低ければ低いほど良いですが、お金の問題があるので「最低でもこの辺までは達成して、できればこのくらいを目指していこう」という宜野座さんのちょうどいい塩梅を教えてください。
宜野座さん:
「2025年4月から省エネ基準でUA値0.87以下が義務化されます。つまり、既に2025年1月に建っている建物のUA値が0.9の場合、その建物は既存不適格建築物になる可能性があります。ただし2030年にはZEH基準の0.6以下を義務化する動きがあるので、現在UA値0.87で建てたとしても2030年には既存不適格建築物になるかもしれません。
今は国がGXの補助金などを出して『G2クラスを目指そう』としていますが、G2くらいは本当に良いレベルです。G2の上にはG3という性能があり、その性能の家に住んでいたことがありますが、そこは過剰ですし、お金もかかります。
ただ『G2を取るために屋根の断熱材200mmのものを250mmにしましたが、壁は薄いままです』というのは、あまり意味がありません。壁と天井や屋根の断熱材とサッシはコストパフォーマンスで考えるべきです。それでちょうどいい塩梅でできているのなら、G1クラスでも良いです。
あまりにもどこかを過剰な断熱性能にして、窓があまり良くないのであればG2を取ったとしても意味がありません」
これから家を建てる人へのメッセージ
高性能住宅に住むメリット
宜野座さん:
「高性能住宅に住んでいた経験から言うと、高性能住宅は本当に居心地が良いです。睡眠の質も良いですし、寒いところから家に入ってきても身体がポカポカになって、暮らしやすいことを実感しました。
光熱費に関しても、エアコンを1台回せば各部屋が暖かくなります。色々な雑誌や本に『高性能住宅に住むと健康になる』と書かれていますが、これはその通りだと思います」
寒い家に住むデメリット
宜野座さん:
「寒い家に住むと足元が冷たくて、眠りの質も悪くてイライラすることもあります。そういう状況は家族として良くないです。寒い家に住むと『寒いね』が口癖になってしまいます。
エアコンをガンガン回しても足元が冷たいから光熱費はどんどん上がって、顔だけポカポカとして暑くなり、のぼせたような感じになり、『ここにずっと住んでいても良いのかな』という気持ちにもなります。
断熱などを色々と調べたり勉強した結果、『このくらいの家が良い』と思うのは、やはりG2までです。G3までいくとコストがかかるので、そこまでのコストをかけてやる必要はありません。
もう少し安くできるのであればG3にしても良いですが、安くなるまではG1~G2の間くらいが一番良いです。それをちゃんと断熱を均等に計算してくれる工務店に頼むのがおすすめです。
また、壁の中は見えなくなってしまうので、施工をちゃんとしてくれる会社を選んでください。せやまさんは色々な研究をした上で工務店を紹介しているので、そういうところに頼むのがおすすめです」
余談
せやま印工務店プロジェクトをどう思う?
宜野座さん:
「最高だと思います。このように良い工務店を紹介してくれる人がいないと、施主側は何を選んだら良いか分からないです。ちゃんと工務店を調べて、見て、紹介してくれるのは良いプロジェクトだと感じています。せやま基準一覧表の項目もすごいと思います」
せやま印工務店にも問題が出ることもあるので、現在は現場監督制度を始めています。会社の中に良い監督がいても新人が現場監督になることもあるので、エースを付けるようにしてもらっています。
社内の社長か事業責任者の名前を出し、その人の責任で「大丈夫!」という人を出してもらっています。仕様なども、施主だったら面倒で絶対チェックしないようなものも含めて86項目作っています。
せやま印工務店は全てオープン
宜野座さん:
「価格をお施主さんに伝えるんですか?」
伝えています。チェック項目も価格も全て公開するルールで運用しています。工務店名は非公開ですが、それ以外はオール公開です。
宜野座さん:
「お施主さんは、それをやってくれている前提で通っているんですか?」
そうです。樹脂サッシやLow-Eペアガラス、アルゴンガス、樹脂スペーサーといったところから始めて、UA値は0.56以下、C値は0.7以下、耐震等級や許容応力度計算は2もしくは3といったものを全て入れて、30坪で2,200万円~としています。
もちろん間取りによって坪数が増えたり平屋に近づくこともありますが、その場合でも性能・標準仕様・金額などのルールはある程度決まっています。
その上で、営業・プランナーが選抜され、現場監督が社内推薦で選ばれています。実際の口コミも、悪い内容を含めて全てオープンにしています。
ここまでやっても評判の良い工務店は、まさに本物です。これで評判が良いのはすごいです。2025年1月現在のせやま印工務店は60社ありますが、トップ20の工務店は本当にすごいです。
宜野座さん:
「20社は全国に散らばっているんですか?」
散らばっています。さらに、その中でもトップ10の会社は何も心配していません。トップ10は悪いアンケートもほとんどないので安心できます。
せやま印工務店の紹介方法
宜野座さん:
「たとえば東京で家を建てたい人が来て、東京に5位・20位・58位くらいの三社があるとします。その場合は上の方を紹介するんですか?」
全部紹介します。それで、施主さんに好きな工務店を選んでもらいます。あくまでせやま印工務店の基準は80点基準の最低ラインです。それを満たしたうえで「G2やっています」「気密は0.3以下です」のような違いもありますし、デザインや個人の営業力もあります。工務店には、そのようなプラスアルファで勝負してもらっています。
5位・20位・58位の工務店があると施主は5位を選ぶことが多いですが、それで良いんです。だから人気工務店であればあるほど、せやま印工務店になるメリットがあります。
紹介フィーなのでリストを紹介した時点で契約の有無に関わらずお金をとります。そのため、58位の会社は契約が取れないから脱退することもあります。契約の取れる会社にとって良い仕組みにしたいと考えています。契約率が高い会社ほど成約単価は下がる仕組みです。
細かく真面目にオープンにすることで、良い工務店さんほどせやま印工務店の良さを理解してくれます。特にアンケート結果を開示することを喜んでくれています。
良い内容が多いですし、たまに悪い内容もありますが、それでも喜びます。というのも、工務店がお客さんに聞いても悪い内容は出てきませんが、せやま印工務店として第三者を通すことで悪い内容も率直に書いてくれます。
後工程の良さを営業マンが伝えることは難しいですが、「先輩クルー」と呼ばれるリアルな施主の声で伝えられるので、後輩クルーも信じることができます。
最後に
住宅業界全体の課題
宜野座さん:
「断熱性能が良いことを売りにし過ぎるのは、ちょっと違うと感じています」
なるべくコストを抑えながら性能も担保できる「ちょうどいい塩梅」は施主には分かりません。それこそプロの技が活きるところです。お金をかけて最高性能にするのは簡単な話です。ただ、お金がかからないけど満足感のある絶妙なラインを広めないと「家は良くなっているけど建てられていない」という状況になりかねません。それで結局昭和基準の家や、地震に弱い旧耐震の家に住むことになっては意味がないです。
宜野座さん:
「資産価値や、今後何かあった時に売らなければならないことを考えると、やはりG1~G2の間くらいがおすすめです。G3の家を建てたとしても、建てた当時は高くても、今の不動産業界では価値を考慮しても恐らく売れません。G1やG2くらいだと10年後、20年後に手放さなければならない時も、ある程度の価値はあると考えられます」
価値を上げるというよりも、下がらないことを重視するようになりそうですね。「最低ここは要る」という目線になっていく可能性が高いです。住宅業界は人が減ってコストが上がり、金利も上がっています。2025年は潰れる工務店が増えるかもしれませんね。
宜野座さん:
「今年は法律の改正が大きいので、ついて行けないところは出てくると思います」
ただ正直、4号特例縮小、省エネ基準義務化などの今年の法改正についてこられない会社じゃ、だいぶヤバい可能性もあります。
宜野座さん:
「そういう部分をやっていない会社も多いですね」
色々な工務店を見ていますが、施主のためにやっていない工務店はめちゃくちゃ多いです。会った時の第一声から「せやまさん、どうやったら売れるん?」「集客の方法は?」というところもあります。
家づくりに関するポリシーやコンセプトがない工務店は潰れた方が良いと思います。
宜野座さん:
「大金を払い、35年のローンを組んで建てる人のためにやっているわけですから、施主のために動いてくれる工務店に頼みたいですよね」