2025.03.12
住宅業界の倒産ラッシュによって「お金を払っても家が建たない!」という状況になりかねません。ニュースでも建築業界の倒産が増えていることは報道されていますが、「自分には関係のないこと」「倒産しそうな会社なんて見たら分かる」と甘く見ている施主が多いです。ただし、これはめちゃくちゃ危ないです。倒産する会社は直前までめちゃくちゃ元気なので分かりません。これは住宅業界のビジネスモデルが要因で、契約をした時とお金が入ってくる時にタイムラグがあります。
施主は、住宅ローンを組んで家が完成した時に全てのお金を支払います。そのため、工務店は施主に支払われるよりも先に業者さんにお金を払わなければなりません。「一回お金を立て替えて、後で回収する」という状況なので、そのキャッシュフローが息詰まると、受注数が多くて勢いが良さそうな会社でも突然倒産することがあります。
「工務店が倒産するとどうなるの?」「なんとかなるんじゃないの?」と言う人もいますが、工事が止まり、払ったお金が戻ってこないこともあります。途中で止まった工事を引き継いでくれる工務店探しも大変で、人生が狂うレベルです。
そのような目に遭わないために、これまで「せやま印工務店」の審査で、数百件の工務店の財務諸表を審査してきた私から見る「倒産リスクが高い工務店」の共通点や、工務店と契約する前に施主がやっておきたい対策を具体的に紹介します。これから家を建てたり住宅会社との契約を考えている人は参考にしてください。
今回は以下を詳しく解説していきます。
目次
建築業界の市場の現状
2024年、建築業界で過去10年で最多となる1,890件の会社が倒産しました。その中でも、大工さんやとび職の職人さんの職別工事の会社が約半数を占めました。人手不足の業界においてこういった倒産が増えると、さらに人手不足になっていきます。
さらに、10人未満の小さな会社の倒産が全体の92.2%を占めていて、規模が小さい会社であればあるほど経営の状況が厳しいというデータが出ています。
倒産の原因
①資材の高騰
これほど倒産が増えている原因の一つは、資材の高騰です。工務店の仕入れ値が上がっているので、その分お客さんに提示する金額を上げないと利益が取れません。ただ、付加価値の高い商品にしていない場合、値上げすると売れません。そこで「値段は据え置きで頑張ります!」とするものの、利益の部分で行き詰まって倒産するパターンがあります。
倒産の原因②人手不足
人手不足も倒産の原因です。職人の高齢化が問題になっていて、良い職人がなかなかいません。その結果、人件費として腕の良い職人の単価が上がっています。もちろん最低賃金も年々上がっていますし、日本全体がインフレ基調でもあるので賃金も高騰していきます。
倒産の原因③家を建てる人の減少
そもそも、家を建てる人が減っているという現状もあります。
このように資材は高騰し人件費も上がる一方で、家を建てる人が減っているため、倒産する工務店が増えています。
工務店の二極化
意外と知られていない事実として、工務店は完全に二極化しています。潰れる会社が増えている一方で、人気が高まり「1~2年待ちは当たり前」という会社も増えています。
これはYouTubeも含めて情報を取得できるようなインフラが整ったことで、施主側が賢くなったことが理由です。つまり、進化できない工務店は不人気になります。一方で、これまで良い家づくりをしてきた工務店に施主の知識が追い付いてきたとも言えます。
多少家の完成が先になっても、こういった人気のある工務店と家を建ててください。
工務店が倒産したら起こること
工務店が倒産したら起こること
- 工事が突然止まる
- お金が返ってこない可能性あり
- 引継ぎ先の工務店が見つからない
工務店が倒産すると、工事が突然止まります。「社員も急に言われてビックリした」というニュースを見たことがあるかもしれませんが、倒産は本当に一部の経営陣しか知りません。突然倒産して、工事が止まります。
払ったお金が戻ってくる場合もありますが、戻ってこない場合もたくさんあります。皆さん以外にもお金を返してもらえるはずの債権者がたくさんいるので、「自分たちまでちゃんと返してもらえるのか」という点は不確実だということを覚えておいてください。
どの工務店も、他の工務店が建てて途中になっている家に携わることを嫌います。打ち合わせをしてないので仕様もわかりませんし、いつもとは違うものを取り扱っていて手間が増える可能性があります。そのため引継ぎ先の会社もなかなか見つかりませんし、見つかった場合でも手間がかかるので、割高になってしまいます。
このような理由で人生計画が狂ってしまいますし、精神的なダメージもあります。これにより体調を崩してしまう施主も多いです。工務店が倒産したからにはできることをやるしかありませんが、事前の段階で防げる対策を講じてください。
やばい工務店の特徴
やばい工務店だと100%分かるような特徴はありません。社内の細かなキャッシュフローなどの内部の情報を、社外から確認することは難しいです。ただし、やばい工務店には傾向があります。私も今まで倒産した工務店をたくさん見てきたので、そういった会社の特徴を参考レベルで紹介します。
やばい工務店の特徴
- 年間販売棟数が10棟以下
- 契約済みの他の施主に会わない
- コスパが良すぎる
- なんでも優しく受け入れてくれる
- クレーム客の対応をしている
- 工期が短すぎる
- 事務所が汚い
人数や棟数が少ない工務店はやばいです。「10人以下だとダメ」ということはありませんが、年間の着工販売棟数が10棟以下の会社は財務的に弱い可能性が非常に高いです。「せやま印工務店」の審査をして、与信で落ちる工務店のほとんどは年間着工販売棟数が10棟以下です。「少なくても1棟ごとに利益が取れていれば良いのでは?」と思うかもしれませんが、棟数が少ないということは仕入れ値が高いです。
たとえばキッチンの会社でも、10棟しか売れない工務店よりも100棟売れる工務店向けの方が安く売ります。そのため、10棟以下のような工務店はメーカーに対する交渉が難しくなり、利益率が悪化しやすいです。
また、そもそもの棟数が少ないため「前年より2~3棟少なくなりました」となるとすぐに赤字になります。このような脆弱性があるので棟数が少ない会社には注意が必要です。
その他、「仕様の打ち合わせをしているお客さんを見かけない」という工務店も怖いです。繁盛している人気工務店は打ち合わせ数が多いので、他のお客さんに会う機会も多いです。
めちゃくちゃ仕様が良いのに価格が安い、コスパが良すぎる会社にも注意してください。一見すると良さそうですが、無理をしていることが多いです。同様に、なんでも優しく受け入れてくれる会社もやばいです。「良い会社に出会えた!」と思うかもしれませんが、追加費用をもらわずになんでも安請け合いしてサービスでやってしまうということは、どんどん利益率が悪化しますし社員は疲弊します。そのため倒産のリスクが高くなるので「安くしてもらえた!」「なんでもやってくれた!」「コスパがめちゃくちゃ良い!」ということがプラスに働かない場合もあるということを頭に入れておいてください。
クレーム客の対応をしている会社もやばいことが多いです。なんでも「お客様は神様だ!」と受けてしまうと、本当に契約した後に事故が起きます。そうなると目に見えない経費がどんどん出ていきます。
工期が短い会社も怖いですよ。「契約したら6ヶ月後に家が建ちます!」なんて会社は、お客さんが全然いないということなので不安になります。工期が長すぎても困る部分もありますが、そういった面にも警戒してください。
事務所が汚い会社は儲かっていないです。儲かっている会社は、管理ができているので事務所も整頓されています。社員の身なりや事務所の清潔さ、お客様の個人情報の取り扱いが悪い会社はトラブルを起こす可能性もありますし、経営的にも苦しくなってくる傾向があります。「絶対にダメ」というわけではありませんが、ここもチェックするポイントにしてください。
安心できる工務店は?
倒産リスクを100%避けることは無理ですが、10棟以上などのある程度の棟数をやっていて、お客さんを見かけて、工期も8ヶ月~1年くらいの工務店を見つける方が安心できます。また、施主としては少し嫌かもしれませんが、できないことはできないと言ってくれたり、追加の費用が発生する会社の方が倒産リスクは低いと考えられます。
倒産のリスクを回避する方法
倒産のリスクを回避するために、施主にできる具体的なことを紹介します。
①完成保証の加入の有無を確認
完成保証というのは、工務店が倒産した場合に返ってこなくなったお金の一部を保証し、引継ぎ先の工務店探しや、引継ぎ先の工務店が割高になった場合に支払う費用を見てくれるといった、工務店の倒産に備える保険のようなものです。
これに入るかどうかは工務店の状況によって決めて良いですが、「工務店が完成保証に入っているのか」「加入することができるのか」は一つの指標になります。
完成保証をする保証会社は、かなり厳しく工務店の与信をチェックしています。その与信が危ない、つまり倒産リスクが高い会社には保証しません。ある程度安定している会社にしか加盟を許さないので、工務店が完成保証に加入しているということが分かれば、一定以上の与信の安定が見込まれると判断できます。
②何棟分の完成保証の枠があるのか確認
より突っ込んで聞くのなら、「何棟分の完成保証の枠があるのか」も確認してください。完成保証は年間で「1棟まで良いです」「5棟まで良いです」のように、与信の安定によって保証会社が決めます。
なかには「完成保証をするけど1棟しか無理」のように、「他の1棟が完成保証中ならもう1棟はできない」と、枠が少ない場合があります。
そのため「完成保証の枠は何棟ぐらい持たれているんですか?」と聞いてみるのもおすすめです。聞くことで「マニアック」「業者かも?」と思われるリスクはありますが、こういったところで間接的に住宅会社・工務店の与信の状況を測ることが可能です。
その上で少しでも不安を感じたり安心がほしい場合は、完成保証に加入してください。ただ、その保険料は基本的に施主負担です。標準仕様の見積もりの中に入れている工務店もありますが、ほとんどの会社がオプションとして施主の負担にしている場合が多いので、その負担をするかどうかは施主側で決めてくださいね。
③財務データの取得
より細かく財務状況を確認したい場合は、財務データを取得してください。帝国データや東京商工リサーチのようなところにデータがあるので、仕事上で信用情報のツールを使う人はちょっとお願いして見てみるのもおすすめです。
G-Searchというサイトなら個人ベースでも財務データを取得することができます。あまり細かいデータは取れないかもしれませんが、ある程度の財務データは取得できるので、こちらを使うのもアリです。
ただし、財務データを見ても素人では分からない部分もあります。私もある程度は分かりますが、細かい部分までは分かりません。少しお金はかかるかもしれませんが、税理士のような専門家に経営状況を見てもらえれば、より安心です。
ここまでやっても損はないくらい工務店の倒産が増えているという危機感を持って、対策を取ってくださいね。
まとめ
倒産リスクが高い工務店・住宅会社|施主ができるリスク対策
- 建築業界の市場の現状
2024年倒産:1,890件(過去10年で最多) - 倒産の原因
①資材の高騰
②人手不足
③家を建てる人の減少 - 工務店が倒産したら起こること
工事が突然止まる
お金が返ってこない可能性あり
引継ぎ先の工務店が見つからない - やばい工務店の特徴
年間販売棟数が10棟以下
契約済みの他の施主に会わない
コスパが良すぎる
なんでも優しく受け入れてくれる
クレーム客の対応をしている
工期が短すぎる
事務所が汚い - 倒産のリスクを抑える方法
完成保証の加入の有無を確認(何棟分の枠があるかも確認)
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